タン塩

「つまりさあ、俺が研究しているのはな、」
男はタンに塩を振りながら語りだした
「タンっていうのは舌だろ舌。牛の舌なわけなんだけど、どうやって作るか知ってる?
ああそうそうタン牛っていうのがいるのね、タン作る用の奴。一見ただのホルスタインなんだけど。
そいつを食べごろになるまで育てたらさ、そいつの口を拘束具でこう、がばっと無理やり開かせてさ細いナイロンのひもをがっちりくくりつけて引っ張るんよ。んでさ、ひもをつけたまま拘束具を外す、ああ引っ張ったままでね、うんああ暴れないようにはしてるよそりゃ。」
男はタンにコショウを振りかけながら話しつずける。
「んでさそれからこんな風に、――鼻先にコショウをおもっきしかける。
そすると牛の奴ものっすごいくしゃみして自分の舌を噛み切っちゃうんだよね、ぶつっと。
何その顔?ああいたそう?まあ痛いかもねでもまあタン牛だし。まあね。」
男はタンを網に乗せながら話し続ける。
「そうやって一匹のタン牛から一度に一個タンをとるんだけど、それじゃ少ないからなんとかとる量を増やそうっていうのがおれの研究。昔は遺伝子操作で超舌がでかいタン牛とか作ったりしてたんだけどうまくいかなくて、舌がのどに詰まって死ぬのね、あと体も弱くなっちゃうし。へ?ああうんタンをとる間隔を狭くするのはイの一に考えつくんだけど以外になかなか難しくて、生理機能に障害がでちゃったりさあ。ああそれはあれだよ引っこ抜いたタンの先端部分だけ切り取ってから外科的に舌の根の縫いつけとくと三か月もすれば元通り。」
男はタンをひっくり返しながら話し続ける。
「いま新しくやってんのはうまくいきそうなのね。ふつうは考えつかねえよ、俺自分で自分にすげえって思ったもん。わかる?…ああ違う違う。問題はさあみんな既成概念にとらわれてるから駄目なんだよなあ、舌はのどについてるもんだと思ってるだろ?
俺考えたんだよね。別に舌が口についてなくてもいいんじゃないか?大体一匹につき舌が1っ個だなんてだれが決めたんだってさ。
男はタンをつまみながら話し続ける。
「わかったっしょ?
ただ問題はなぜかタンのこの側面のとこが白黒模様になっちゃうことなんだよなあ。」
男は黙ってタンを食べた。