荻神さん


手がべたべたしてきたので、砂で洗う。
その手で体操服を触ったら、きょうに合わせて母親が洗ったばっかりなのに汚れてしまった。
別につまらないわけではないけれど、運動会は特別に楽しいということもない。いつもと同じだ。
トラックでは上級生が徒競争をしていた。
三位の看板を持ってる人がよろめく。突然強い風が吹いた。
敢て風を正面で受けると目が砂でちかちかする。

その時前の席に座ってた荻神さんの髪の毛が、風になびいて僕の顔にかかった。
あわてて目をつぶったとき、僕は一本の髪の毛がするする口の穴に入っていくのを感じた。
僕が驚いてる間の一瞬にそれは気道を通って行って、全くむせなかったのが不思議だけれど、胸の奥の方にすっとおさまってわからなくなった。
それがそのあとどうなったかというと、
実は今もまだそのまんまなんだけど。